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2019-11-25

主夫の道

どうせ僕なんて、ダメに決まってる。

そりゃそうだよなぁ。こんな年収が三百万にも届かない男なんか、見向きもされないに決まっている。

特技や趣味と言えば幼い頃から好きだった料理だけ。

僕は盛大に溜息をついた。

どうにも仕事に恵まれず、料理店のシェフとしてあくせく働いていたのだが、それでも給料は低く、ボーナスなんて出ないし、安いアパートで質素な独り暮らしをするのがギリギリという状態だった。

家族を養うなんてとんでもない。仮に僕なんかと結婚したいという物好きがいたとして、必ず共働きでいてもらわないと生活できない。

唯一料理が好きだから、もし許してもらえるならば専業主夫という道もアリかな?と冗談半分で考えてはいたのだが、そんな話は当然なかった。

世知辛い世の中だ、まったく…。

そう思っていた。

自暴自棄になっていた。

そう、嫁と出会うまでは。

 

ある日、友達に誘われた飲みの席で一人の女性に出会った。

話しているとその女性はバリバリのキャリアウーマンで、しっかりはしているがとても優しく癒される人。意気投合し、結婚の話題になると女性はこう言った。

「私はバリバリ働きたいから、専業主夫になってくれる人がいい。子どもはどちらでも良いけれど、できるなら子育ても優先的に任せたい。変わっているかな?」

一般の人はどう思うかわからないが、僕はとても共感できる気持ちだった。

「そんな事はないよ。僕はとても共感する!」

もともと料理が好きで、そして家事が苦にならなかった僕は、この女性となら本当に良い夫婦関係が築けるかもしれない…そう正直に思った。

その後、時を積み重ねて僕たちは交際する事になった。

同棲を始め、最初こそ慣れない事もあったが、あまり上手くいかなくても彼女は責めず、いつも感謝してくれてた。穏やかなお互いの気持ちを確かめ合う時間を過ごす中、改めて彼女と結婚したいと強く思うようになっていった。

こうして結婚した僕たちは、僕が専業主夫となり、嫁が働きに出るというスタイルの夫婦となった。

 

嫁はバリバリのキャリアウーマンで友人も多かったので、よく家に友人を連れてきた。

僕はいつも得意の料理の腕と、今いる専業主夫の形として彼女たちをもてなした。

ある日、やって来た嫁の友人の一人が酔って嫁に言った。

「旦那さん、専業主夫?それで良いの?なんていうか、将来不安じゃない?」

やはりそんな風に見られてしまうのか…。そのように見られてしまう嫁の気持ちを考え、僕は少し落ち込んだ。

しかし、嫁はさらりと返した。

「全然。うちは男女逆転してるだけだから。そこらへんの主婦よりもちゃんと家事をこなしてくれるよ。旦那のおかげで気兼ねなく仕事をできるから、心から感謝している。自慢の夫だよ」

新しい夫婦の形を誇らしそうに話す嫁と、羨ましそうに聞く友人が見えて、僕はこの夫婦の絆をこれからもずっと大切にしていこうと心に誓った。

 

 

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