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2019-12-02

ふたりの愛した人

私には心から愛した人がいた。

友人の結婚式でその人とは出会った。仕事は消防士をしていて、正義感が強く、優しい彼に私は惚れた。

人を惹きつける性格の彼は、後輩にも慕われていた。その後輩の一人は彼を尊敬し、彼と兄弟のようにいつも行動を共にしている。私が彼と付き合いだした後も、その後輩と三人で出掛けたりすることも多く、なんだか家族のように三人は繋がっていた。

ある日、家で鍋を囲み、三人で飲んでいる時にふと彼は言っていた。

「おれがもし死んだらあいつのことを頼む。いいな?お前に任せたからな?」

後輩は、「そんなこと僕にできるわけないじゃないですか。それに先輩は絶対に死にませんよ」と笑っていた。

私は台所で料理をしながら、二人とも本当の兄弟以上に仲が良いと思いながら微笑む。

 

ある日、彼に緊急の出動連絡の電話が鳴った。大きな火事があり、すぐに行かなきゃいけないと。私は嫌な予感と共に、急ぐ彼の腕を掴み言った。

「絶対に無理はしないでね?気をつけてね」

彼は「大丈夫だ。それよりも早く行かなきゃ手遅れになる」と言い、颯爽と家を出て行った。

次の日、彼は帰らぬ人となった。

正義感が人一倍強い彼は、一般人を守るため飛び込んだ。消防士として、人として英雄のような死。けれども私には悲しみしかない。涙が止まらず崩れ落ちる。

そんな私の横で彼の後輩は、彼の遺影に呟く。「僕が必ず…」と。

 

その日以来、悲しみから抜けられない日々を過ごした。そんな私をあの彼の後輩は一生懸命支えてくれた。

彼が亡くなって一年が過ぎた頃、彼の後輩から改めて話したいことがあると連絡がきた。

雪がチラつく公園のベンチで、ゆっくりと彼の後輩は話し始めた。

「あの日、出動する前に先輩は僕に言った。『おれにもし何かあったら、本当にあいつを頼む。おれ以外にあいつを幸せにできるのはお前だけだ。いいか?約束だぞ』と。僕はその約束を守りたい。尊敬し、大好きな先輩の遺言と、あなたを想って。二人で先輩のことは忘れずに、僕と歩んでくれる?」

私は以前にその言葉を何気なく聞いていた。そして本気で彼がそのように思っていてくれたことを噛み締めた。命をかけてまで私の幸せを願ってくれる彼。それを守ってくれる彼の後輩。

私はそんなふたりがいるなんて幸せ者だ。そう思うと涙が止まらなかった。

私はその想いを受け取ることにした。彼を忘れるわけではない。彼の願いを叶えるためだけに彼の後輩と一緒になるわけではない。私を愛して支えてくれたのは彼。そしてその彼と一緒に支えて想ってくれたのはこの人だから。

 

こうして私はふたりの愛した人と歩み始める。

亡くなった彼が見守ってくれるように光が照らす。

私の中には愛した人が、私の隣には愛した人がいつまでもいる。

 

 

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