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2019-12-05

空白の結婚式

高校生の夏、テニス部のマネージャーをしていた私は恋をした。

可愛くもなく、目立たない性格の私に優しく接してくれた先輩。私の初恋だった。

夏の大会が終わったあと、その恋は実り、先輩と付き合うことができた。とてもうれしく、初めての彼氏を私は大切に大切に想った。

大学に進学する時も、私は彼氏のいる大学になんとか進学しようと頑張った。少し私の成績では難しい大学。けれども無事合格し、私たちは大学生活も共に過ごした。

彼は大手企業に就職が決まり、私の卒業を迎える時、自然とお互いに結婚を考え始めていた。ただ彼は少し精神的に弱い人であったため、結婚ということに対し、慎重に考えすぎてしまうところがあった。

 

時が経ち、私も仕事に慣れ始めた頃、私達は一緒に住むアパートの引越し準備と結婚式の準備を進めていた。

女性にとっての結婚式はやはりうれしいもので、ウエディングドレスなど衣装を選ぶのも凄く楽しく、私は結婚に対する喜びを感じていたが、彼は隣で微笑みながらも少し表情は曇っていた。

この頃、彼は仕事が激務で毎日遅く帰ってくる日が続いていた。毎日「ただいま」とメールや電話がくるのは決まって日付が変わる時間。そのような中、引越しの準備や結婚式の準備はさらに負担を与えていた。私は一人で出来ることは彼の負担にならないように積極的に進め、仕事で忙しく疲れている彼を支えた。

そうしてなんとか準備が整い、結婚式の招待状なども出し終えた後、彼は急に姿を消した。

最初は忙しいのかな?と思っていたが、一日に連絡が一回も取れなかったことなどない。夜が更け、私は何かあったのかと心配になり、何度も電話をしたが繋がらない。彼の両親に電話をすると、まだ帰ってきていないとのこと。そして数日経っても彼は帰らず、連絡も繋がらない。

私は心配が尽きず、彼の友人や知り合いに連絡もしたが、彼を知る人はいなかった。これ以上どうすることもできなく、彼の両親と一緒に警察に捜索願いを出すことに決めた。

私は毎日涙を流し、「無事にいて…」と祈りながら警察からの連絡を待った。

数日後、警察から彼が見つかったと連絡がきた。彼は知らない遠い街中で立ち尽くしていたらしい。私はとりあえず無事でよかったと安堵し、急いで警察署に向かった。

警察署に着き、彼を見ると、衰弱し廃人のような表情で座っていた。

「ごめん。本当にごめん」と涙を流す彼。

私はそんな彼の背中をさすり、頷くことしかできなかった。

彼は自分の中で苦しんでいた。仕事が激務で限界の状態だったが、結婚を控えているのに辞めることもできない。ギリギリで保っていた精神状態が急に崩れてしまったのだろう。

それはそんな彼を知りながら支えきれなかった私のせいでもある。とにかく無事でよかったと思いながらも、私は心の奥底で悲しみに暮れた。

 

そのことが原因で、私たちの結婚式はキャンセルになった。もう招待状を出していたので、すべての人に迷惑をかけることになる。私の親も当然の如く彼を責める。もう結婚式などは認めないと両親にも言われた。

私はキャンセルのお詫び状を整理しながら涙を流す。

すべて失ってしまった…。どうして私だけがこうなるのか。幸せに向かっているはずが、急に暗闇に満ちてしまった。

そう思いながら泣いている時に、病院にいる彼からメールがきた。

「本当にごめん。でも頑張るから。結婚式、必ず挙げよう」

私はそれを見て誓った。どんなに他人から反対されようが、どんなに親から反対されようが、私はこの人と結婚式を挙げる。離婚などもしない、どんなことが起きても彼を想う気持ちは変わらない。

それから私は彼の精神状態が回復し、新たに彼と結婚式を挙げるために一生懸命頑張った。彼に無理をさせないよう彼の実家にも住み、彼を支え続けた。

 

数年後、彼は回復し、ふたりの結婚式の日を迎えた。

反対し続けた両親を説得し、恥を承知で迷惑をかけた人達にもう一度招待状を送った。

それでも多くの人達が来てくれた結婚式で、私はふつうの人が流す涙の倍の気持ちで涙を流す。

結婚式を迎える前に誓った思いと、結婚式で改めて誓った思いは決して消えることはないだろう。

私はこの先にどんな苦難があろうとも彼を想い、これからもずっと彼と歩んでいく。

 

 

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