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2020-01-16

雛親

その日、ふらっと立ち寄ったペットショップで出会った鳥の雛。

まだ目も開いているか開いていないか、毛も生えそろっていないセキセイインコの雛達がいた。

籠に目をやると、皆で集まりながら寝ている。それは可愛く思うのと同時に、生まれたばかりで親から離された雛を少し可哀想に思った。

そんな気持ちで雛を見ていると店員さんが近寄ってきた。

「鳥がお好きですか?この子たちは生まれたばかりです。セキセイインコはとても飼いやすいですよ」

僕は昔セキセイインコを祖母の家で飼っていた。その時のことを思い出し、店員さんと色々話しながらインコを眺めていると、店員さんが「手を籠に入れてみてください」と言った。手に興味を持つ子は人に懐きやすいということらしい。

僕が手を籠に入れるとインコ達は籠の隅に逃げていく。けれども一羽だけ僕の手に興味を持ちながら近づいてきた。

「この子は懐きやすいと思います」

続けて店員さんは「この子はハルクインという品種で珍しく、とても綺麗な羽になると思います」と言った。

僕はふらっと立ち寄ったペットショップで、唯一近づいてきたこの子に惹かれてしまった。そして心の中でもう飼うことを決めた。気付けば飼い方、餌の与え方、籠などを選んでいる自分がいた。

帰り道、小さな箱から時折見せる姿がなんとも可愛らしい。家に着き、家族に見せるといきなりインコを連れてきたことにビックリしていた。

箱からインコをそっと抱え上げると、インコはよちよちと歩き出す。もう何時間も眺めているだけで幸せになる気持ちだった。まだ餌は自分で食べられないので、お湯で柔らかくした餌を与える。インコはたくさん餌を食べてすくすくと育っていった。

 

時が過ぎると、羽毛が生えそろってきて、とても鮮やかな色合いを見せる。そしてこの子はオスだとわかった。インコは小さい頃、オスかメスかがわからない。成長し、鼻の色合いでオスかメスか判別できる。

飛ぶ時期も迎え、色々なところに飛び回るが、最初はうまく飛べないため、壁にぶつかってしまったり、手の届かないところに乗ってしまう。インコの中でも飛ぶのが上手い子、苦手な子がいるらしい。それで骨折など怪我をしてしまうインコもいるようで、飛べないように羽を切ることもあるようだが、僕はそれをしなかった。

僕らにしたら腕をもがれるようなもの。そして鳥として生まれ、飛べないなんてとても悲しいことだと思ったから。だから思うように羽ばたいて欲しかった。怪我をしないように注意をしながら飛ぶ練習を見守った。

そうしてとても上手に飛べるようになったインコは、僕が呼ぶとどんな所にいても肩や手に飛んでくるようになった。籠に戻そうとしても、僕にべったりくっついて離れない。

毎日話しかけていると、言葉も喋るようになった。寝る前に籠に毛布を被せる時におやすみと言うと、「おやすみ、おやすみ」と言う。朝に毛布を開けておはようと言うと、「おはよう、おはよう」と言う。時折色々な言葉を真似し、ご機嫌の時は歌も歌っていた。

そんなすべての姿が可愛らしく、親と思ってくれているうれしさがいつも込み上げる。

 

インコは、いつも遊んで遊んでと言わんばかりに籠に張り付く。だが、仕事が忙しくなるにつれ少しずつインコと遊べる時間が減っていった。籠の中で歌う時間が増えたインコ。申し訳ないと思いながらも、限られた時間しか遊んであげることができなかった。

月日は流れ、歳をとったせいかあまり飛ぶことも少なくなった。それでもたまに籠から出ると僕の肩に止まっていた。セキセイインコの寿命は約七、八年。気付けばもう九年の月日を一緒に過ごしていた。

ある日の朝、いつも通り籠の毛布を開けると、インコは少し震えながら寝ていた。朝にいつもおはようと言うと「おはよう」と言って餌を食べるのに…。

あきらかに具合が悪そうだったので、僕は動物病院を探し電話したが、なかなかインコを診てくれる病院はなかった。あるのは遠くにある動物病院のみ。電話をし状況を説明すると、そのような状態で長距離を移動する方がインコにとってストレスになってしまうと言われた。できるだけ部屋と身体を温めて、栄養を与えるのが良いと聞き、僕は急いでペットショップに向かった。

ペットショップの店員さんに説明すると、籠を温める電球と、栄養豊富な餌を進めてくれたので、それらを買い急いで家に戻った。

インコは相変わらず目をつぶりじっとしている。「大丈夫?」と何度も声をかけると、たまに少し鳴きながら目を開けるが、とても辛そうな状態。

動物は本能的に弱った姿を見せることをしない。死ぬ姿を見られることも嫌がる。それでも僕はずっと傍で看病を続けた。大好きな小松菜とりんご、砂糖水などをあげて回復するのを願った。

すると少しずつインコは元気になっていった。夜にはいつも通りの姿を見せ、僕は一安心し「よかったね、頑張ったね」とインコに声をかけたが、刻一刻と寿命が近づいていることも感じた。

それから僕は無理矢理でも時間を作り、昔のようにインコと遊ぶ時を増やした。歳のせいか、あまり飛ばなくなったインコは僕の肩で歌を歌ったり、手の周りをよちよち歩いたり、ずっと僕の傍を離れない。なんだか飼った当初を思い出し、一緒に過ごした時を思い返した。

 

そして一週間後、インコは命の灯火が消えるように止まり木にもとまらず籠の下でうずくまっていた。

「もういいよ。頑張ったね。ありがとう。本当にありがとう」とインコ撫でる手に涙が落ちる。

そのままインコは僕の手に触れながら逝った。

もっともっと遊んであげたかった。もっともっと一緒に過ごしたかった。

思えば最後に元気な姿を見せてくれたのは、悲しみと悔いを残さないように、寿命に逆らって僕との時間を過ごしてくれたに違いない。

最後までこの子は僕の心に寄り添ってくれた。

雛から育てたこの子は、もう二度と見えることのない姿となって大空に飛び立っていった。

 

 

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