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2020-02-21

ふたりのシェフ

「うちはすべて私。まあ、専業主婦だからね」

これが私の決まり文句だった。

主人と結婚してから、専業主婦になり、家事はすべて私が担当する事となった。

私は仕事に全く執着していなかったし、かといって嫌いだったわけでもなく、主人も私が仕事を続けるかどうかは私に一任していた。

妊娠するまでは仕事を続けるつもりだったのだが、偶然にも主人が転勤となり、それをきっかけに、特に仕事に執着していなかった私は退職し、専業主婦になった。

 

主人は家事のできない人だった。特に料理はからきしダメだった。

ひとり暮らしをしていたが、洗濯物はクリーニング、料理はいつも外食、掃除は適当に掃除機をかけるぐらいだった。

そこで、必然的に家事能力が勝る私がすべて家事を担当するようになった。子どもができても、それは変わらなかった。

主人は子育てには協力的だったが、相変わらず家事は私に任せきり。私も、そういうものだと思っていたので、特に不平不満があるわけではなかった。

私が家事をしている様子を見て育った息子は、よく私の手伝いをしてくれた。

 

そして、ある時こんなことを言い出した。

「お母さんには、お休みの日が無いの?」

たまたま主人もいる場で、そんなことを言い出したもので、私も主人もハッとした。

思わず答えに詰まる私を見て、主人がポツリと呟いた。

「たしかに…」

そして、私の誕生日がもうすぐだったということもあり「誕生日の日は子どもを見ているから一日自由に過ごしてきたら」と主人が提案してくれた。

「じゃあ洗濯干して、掃除してから…」という私を制して、「一日ぐらいやらなくても大丈夫」という主人に、息子が「いつも僕がお手伝いしてるから教えてあげる。一緒にやろう」と言い、主人はそんな息子の成長に目を丸くして「よーし!じゃあ教えてもらおうか」とやる気満々になった。

そして私は誕生日の日、一日自由な時間をもらった。

私自身の希望により、夜ご飯は家族で過ごしたいということで、適当な出前でも取ってもらい、家族一緒に誕生日を祝うという約束をしていた。

久しぶりにたったひとりで自由に行きたいところへ出かけ、やりたいことをやり、充実した一日を過ごして、家路についた私は、不思議と家族が恋しくなり、足が早まった。

扉を開けると「わー!帰ってきちゃったよ!」という声が聞こえてきた。

ドタバタと慌ただしい様子に何事かと思ったら、エプロン姿の主人が出てきた。

「どうしても手作りが良いっていうから」

少しバツが悪い顔をして、私をリビングダイニングに通すと、めちゃくちゃなキッチンが目に入った。何やらボウルの中のケーキ生地のようなものと奮闘している息子の姿と、鍋の中で煮えている謎の煮込み料理、小麦粉まみれのタブレット、様々な調理器具が積まれたシンク。

私は思わず盛大に吹き出して笑ってしまった。慣れない料理なんてするから、こんなコメディのようなことになるのだ。

でも、息子の気持ちを汲んで手作り料理で私を祝おうとしてくれたことが、素直に嬉しかった。

私は腕まくりをして、手を洗い、手早くシンクを片付けて、息子のケーキ作りを手伝い、鍋の煮込み料理の味を調え、困り果てた主人にテキパキと指示を出した。

あれよあれよとパーティー料理が出来上がる。

いつも独りで、あるいは時折息子と二人で立っているキッチンに三人集まると、狭く感じたが、賑やかに家族全員で料理するのはこの上なく楽しかった。

主人はしょぼくれていたが、このドタバタが私にとっての最高のプレゼントとなった。

 

帰宅して数時間後、ようやくパーティーが始まった。

みんな腹ペコで、自分たちが一生懸命作った料理をパクパク食べて幸せそうに笑った。

やっぱり家族が一番。温かい食卓を囲んで、私は心から満足した。

それから主人も息子も料理熱に火がついたようで、休日には二人でキッチンに立つようになった。

いつまで続くか分からないが、料理男子を目指すふたりのシェフを応援しながらコーヒーを飲んでゆっくり見守るのが、私の至福の瞬間だ。

 

 

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