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2020-04-10

さくら並木の歩み

結婚して引っ越してから早五年。

妊娠して子どもを授かり、三歳になる息子の手を引いて散歩に出た。家から五分も歩けば大きな川に出る。この川は、私の実家の近くにも走っている川だ。

春の散歩日和に川沿いを息子と歩いていると、まだ五分咲きぐらいの桜の花がそよ風に揺れているのが目に入った。その瞬間、不思議なことに私の脳裏にはっきりと幼い頃の思い出が色鮮やかに蘇ってきた。

母と手をつないで歩いた川沿いの桜並木。

桜が咲く頃になると毎年川へ連れて行ってくれた母。花を愛していて、季節ごとに咲く花を見に、川や公園、山などに連れて行ってくれた。

家にもいつも花を飾っていて、私たち家族の毎日を美しさと良い香りで華やかにしてくれていた。

 

片方の手では息子の小さな手を引いて、もう片方の手には懐かしい母のぬくもりを感じて、デジャヴのようなフラッシュバックに不思議な心地よさを感じた。

息子を連れてこの川沿いの道を通るのは初めてではなかったが、桜の花が少しだけ木に咲いて、そよ風に揺られている風景が、なぜか突然私の記憶を刺激したようだった。

最近は一日一日があっという間に過ぎていき、育児と家事に追われ、つい心に余裕が無くなってしまう。そんな中で、ふいに見かけた桜に心癒され、ふわりと気持ちが軽くなり、じんわりと胸の奥が温まるような気がした。

五年前に引っ越してきて、慣れない土地で不安や緊張で心がいっぱいだった私が、少しずつこの土地が自分の居場所となっていく中で、もうすっかり”こちら”の生活に馴染んでしまったが、川沿いの道で育ってきた場所や実家の家族の記憶が蘇ってくる。

「お花、咲いてるね。きれいだね」

手をつないだ息子が私の方を見上げて、桜を指さしてそう言った。

「うん、きれいだね。桜って言うんだよ。さ、く、ら」

「さくら~」

「そう、さくら」

「さくらのお花、きれいだね」

「お花、好き?」

「うん!大好き!」

 

息子のキラキラと輝く瞳を見て、私はあることを閃いた。

いつもなら五分で帰宅できるところ、十五分かけて回り道し、花屋に立ち寄った。

そして息子とふたりで花を選び、買って帰った。

息子と一緒にリビングに飾ると、また幼い頃の我が家の情景がフッと蘇ってきて、私は自然と笑顔になった。

主人が帰ってくると、息子が駈け寄り「パパ!お花!見て!お花!」と嬉しそうにはしゃいだ。

家族全員が笑顔になり、私たちの何気ない毎日にも花が咲いたようだった。

 

 

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