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2020-05-19

夜空ノ下

空は繋がっている。

でも、夜空や青空は繋がっていない。

そんなことを思ったのは、旅から帰って来てからだった。

そう。ずっと空は繋がっているものだと思っていた。

会社帰りに頭上に広がるモヤがかかったような薄暗い夜空は、海を渡って世界中を覆っていると、なぜか感覚的にはそう思っていた。

もちろん私はバカじゃない。時差があるのは知っている。日本が夜なら、ブラジルは昼間だ。日本を覆う空が夜空なら、ブラジルは青空。

理論上は分かっていたけれど、実感が沸かなくて、日本で働き日本で暮らしている限りは、私の頭の上の空模様だけが、私の意識に宿る空模様だった。

それは私が日本から出たことがないから、というわけではない。

私だって海外旅行には何度か行ったことがある。時差だって経験した。それでも、帰国すれば私の空は日本の空だけになる。

ところが…。

この度の旅行で、私は出会ってしまった…。寝ても覚めても、つい想い描いてしまう男性に。

 

旅先はイタリア。仲の良い同僚と女二人旅だった。

イタリアの男性はすぐに女性に声をかける。声をかけないと逆に失礼だと言われる文化があるそうだ。

私たちに声をかけてきた男性グループは、英語が話せる人たちだったので、街を案内してもらったり、一緒に食事をしたり、楽しいひと時を過ごした。

そのうちの一人、気になる男性がいた。一目惚れと言えるのだろう。彼を見ると動悸が激しくなるのに幸せな気分になった。

そんな彼から連絡先を聞かれた時、私は天にも昇るような気分だった。

「どうして?」

そう聞いた私に、彼は「夢で君を見たから」と答えてウインクした。あまりにキザな台詞に、同僚は隣で大興奮していたが、私はひたすら嬉しくて、帰国しても彼と連絡を取り続けていた。

海を越えて遠く離れた国でやりとりすると、空模様が違う。

日本の夜は、イタリアは昼間で、イタリアが夜になると日本は朝。

「おはよう」と声をかけると変な感じがするし、「おやすみ」と声をかけるのも変な気分。

それでも「今、そっちは夜だよね」というメールに「星がとても綺麗だよ。君と一緒に見たいな」と返ってくれば、それだけで心ときめいた。

彼は決まって夜空の話題を送ってきた。いつも「満月だね」や「日本では流星群があるって聞いたけど、見るのかい?」など、そんな話ばかりだ。

「月や星が好きなの?」と聞くと「最高にロマンティックだからね」と返ってきた。

いつしか私は彼と同じ夜空を、彼の隣で見上げたいと思うようになった。

 

そんなある日のこと。

「君と同じ星を見られることになったよ!」と彼からメールが届いた。

「日本支社に転勤が決まったんだ!」

私はメールを何度も何度も読み返した。最初は冗談かと思ったが、どうやら本当らしい。

窓から空を見上げると、美しいオリオン座がキラキラと輝いていた。この星空を一緒に見られるんだ…!

そう思うと、私はじわりと胸が熱くなり、なぜだか涙が溢れてきた。私たちは運命の糸で結ばれているのかもしれない、と本気でそう思った。

彼は「一緒に『おやすみ』を言って眠りに落ちる日を楽しみにしているよ」というメールを送り、最後に「それじゃ、おやすみ」とボイスメッセージを送ってきた。

 

私は星空を見上げて、湧き出る喜びを噛み締めた。

今宵は最高の気分。

眠りにつけそうになく、夜空をいつまでも眺めていた。

 

 

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