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2019-10-04

木洩れ日の中に

近所の公園を走っていると心が浄化されるようで、私はよく勉強に行き詰まると決まって公園へと走りに出かけた。

高校三年生、受験生という肩書を背負って日々「勉強しなければ」という強迫観念に追われながら机に向かう日々だった。

それが、ある時ふと思い立って走りに出かけたことで、適度にリフレッシュできて逆に勉強の効率が上がると気付く。

それから私は日課のように公園へ出かけた。

私の好きな時間帯というものがあって、それは午前十一時半頃だった。

この時間になると、ちょうど太陽の光が公園の木々の隙間から差し込み、木洩れ日がまるで絵画のように美しく、そして光を透かした葉がまるでステンドグラスのように輝く。この風景を見たくて、私はよく午前十一時半に合わせて公園へと走っていった。

 

そんなある日のことだった。

いつものように絶好の時間帯に公園を走っていると、木洩れ日の中にひとりの男性が立っているのに気付いた。

まるでスポットライトか何かを浴びているような雰囲気で立つその男性は、公園には似つかわしくないスーツスタイルで、しかもその出で立ちはサラリーマンのそれではなく、いわゆるホストのようなスタイルだった。

瞬間、ホストと思われる男性と目が合い、とっさに視線を外してしまったが、どこかで見たような、知り合いだったような、そんな気がして再び視線を戻すと、なんと中学の同級生だった。雰囲気は変わってしまったが、間違いない。

「あれ、久しぶり」

思わず声をかけてしまった。

互いに名前を確認し合い、「こんなところで会うなんて」と笑い合い、そして近況や昔話に花を咲かせたが、彼はあまり自分の仕事については話してくれなかった。

「ホストさん?なんだよね?」と聞くと、目を逸らして俯きながら「そ」と軽く答えただけだった。

「かっこいいじゃん」と言うと「別に。ただ女性をおだてて盛り上げてるだけだし」とそっけない返事で、それきり話は膨らまなかった。

 

それでも成り行きで互いの連絡先を交換し合い、私たちは暫くメールでやりとりを続けた。

受験勉強で息が詰まりそうになっていた私にとって、彼とのメールは楽しみのひとつになっていた。なんてことない他愛ないやりとりだったが、確かに私は彼からの連絡を心待ちにしていた。

暫く経って「また会わない?」という話になり、例の公園で待ち合わせて公園内のベンチで夜な夜な語り合った。主にくだらない話題で盛り上がっていたのだが、流れで恋愛の話になり、恋人はいるのか、好きな人はいるのか、と聞かれた。

私は一瞬答えに詰まった。なぜなら、その時に心のどこかで彼に惹かれている自分に気付いていたから。

でも、それはまだ確信ではなかったし、彼に伝える勇気も無かった私は、もしあなただったらどうする?といったような事を口走った。

すると、その瞬間、彼は驚いたような素振りを見せたが、すぐに「ダメダメ!俺はダメだって!こんな優秀で真面目でよくできた人は、俺なんかには勿体なさすぎるし、俺はさ、ほら、住んでる世界が違いすぎるしさ。とにかく、釣り合わない!うん!めっちゃ嬉しいけど、でも俺はダメだ!」と早口でまくし立てた。

私はその勢いに圧倒されてしまったが、すぐに「冗談だよ」と言ってみせた。

マシンガンのように話していた彼は、それを聞いて一瞬動きが止まり、すぐに「だよなぁ。もう冗談キツイって」と笑い始めた。

私の自惚れだろうか。

彼の反応を見て、もしかしたら私の事を憎からずと思ってくれているかもしれない、と思ったのだ。

しかし私はすぐに「冗談だよ」と言って全ての話を無かった事にしてしまった。私の方は冗談でもなんでもなかったのに。本心を匂わせたのに。それなのに、彼の反応を見て「冗談」という言葉で全て打ち消してしまった。

自分の勇気の無さと後悔が胸を熱くする程じわりと訪れる。

そして、私と彼はこの日以降、会う事も、連絡を取る事もしなくなってしまった。

 

この高校三年生の淡い思い出は、大人になった今でも時々思い出す。

彼に抱いていた仄かな感情は何だったのか。ちょっぴり切なく甘酸っぱいような、そんな青春の記憶。

 

 

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