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2019-10-27

満月の夜に

月を見上げて涙を零す。

もう、何度繰り返してきたろうか。

あなたは、もうここにはいない。

遠いところへ行ってしまった。

月を見上げる度に、あなたを思い出す。

あなたと見上げた眩しいくらい明るい満月を。

 

いつか宇宙へ行きたいと、月へ降り立ってみたいと、あなたはそう言って目を輝かせていたけれど、今はもう、月よりも宇宙の彼方よりも、ずっと遠くへ行ってしまった。

私も後を追うことを何度も考えたけれど、どうしてもその勇気が出なくて、臆病な自分に呆れてしまいながら、今日もこうして満月を見上げて涙を零す事しかできない。

 

あなたが重篤な病に侵されているという事は、はじめから知っていた。

私たちの出会いは病院だったから。

私はただの盲腸で入院していた。あなたは病院にやたらと詳しく、私に色々なことを教えてくれた。

「もうここの主みたいなもんだからさ」

そう言って笑うあなたの顔は透き通るように白くて、今にも朝日に溶けて消えてしまいそうなくらい儚く美しかった。

私は退院してからも、あなたを見舞いに何度も病院へ足を運んだ。

あなたは最初、私のことを「自分のことを珍しがっている、あるいは憐れんでいる」と思っていたらしかったけれど、そんな風に思われるのが嫌で、私はあなたに告白した。

「僕は長く生きられないよ。いつお迎えってやつが来るかわからないんだから。それに病院からは一歩も出られないし」

あなたは呆れたようにそう言ったけれど、まんざらでもないようだった。

私は「それでもいい。そんなこと、わかってるに決まってるじゃない。その上で勇気を出して告白したんだから、全部承知の上だよ」と言った。

 

それから私たちは恋仲となって、二人で病院の屋上に並び、月を見上げて語り合った。

あなたはいつも宇宙への夢を楽し気に語っていた。

「宇宙の事を思うと自分がちっぽけに思える」とあなたはそう言っていた。

私はあなたと見上げる月が好きだった。

一緒に月を見ている時間が永遠に続けば良いのに、といつも思っていた。

それでもあなたの命は確実に終わりへの道を辿っていて、お迎えは突然やってきた。

あなたが天国へ旅立っていった日は、満月だった。

まるでかぐや姫が月へ帰るように、あなたは静かに旅立っていった。

 

だから私は、満月の日がやってくると月を見上げてあなたを想って、こうして涙を流すのだ。あなたが月にいると信じて、あなたの夢が叶ったと信じて。

本当はもっともっと遠くへ行ってしまったと知っているけれど、せめて、長い道中で月に寄り道できたと。

そう、信じていつの満月も彼を想う。

 

 

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