「死がふたりを分かつまで」という言葉は、本来夫婦間で交わされる約束であるが、私は親友とこの言葉を交わしていた。
もちろん、半分冗談のような意味合いで、しかし半分は本気で、互いに手紙を送ったり連絡を取ったりする時に使っていた。
高校で出会った親友とは、三年間の高校生活を終えてもなお親交が続き、大学生になっても、社会人になっても、定期的に連絡を取り合い、会って近況を報告し合っていた。
大切な友だちだった。妙にウマが合って、一緒にいてとても居心地が良く、尊敬できる存在でもあった。
そんな親友が、病気になったという連絡があり、私は駆け付けた。
病名を聞いて、絶句した。
白血病だった。それも、末期の。
親友は、まだいかにも病人という風貌にはなっていなかったが、いくらかやつれているようだった。私の姿を見ると、ニヤリと笑って近寄ってきた。
かける言葉が見つからず、私は、ただひと言「聞いたよ…」としか言えなかった。
「うん」
親友は少し表情を曇らせてそれだけ答えてから、明るく「ま、仕方ない!なっちゃったもんは!」と言い直した。
一体全体どこからそんなエネルギーが出てくるのだろうというくらい、親友は元気だった。カラ元気だったのかもしれない。でも、親友は白血病になったとは思えないくらい明るく前向きだった。
余命宣告もされているのに「残りの人生を思い切り楽しまなくてどうする!」と、あえて手術や過酷な治療を望まず、死期を迎え入れると決めたと言った。
そして、やりたかった事を全部やると宣言し、私もそのいくつかに付き合わされた。
旅行であったり、美味しいものを食べる事であったり、とにかくバカ騒ぎする事であったり、親友と過ごす最期の時を、私は複雑な気持ちで過ごした。
そして数ヵ月後、親友は逝った。
とても満足した顔で、安らかに逝った。
親友が亡くなる直前に、私に言った言葉が忘れられなかった。
「死が二人を分かつまでって約束、覚えてる?思っていたよりずっと早くなっちゃったね。でもさ、これしきのことで私はいなくならないから。あんたんトコに生まれ変わるよ」
ちょうどその頃、私は不妊治療をおこなっていたのだった。
「だから、めげずに頑張って!私が宿るまで諦めないで」
親友は笑ってそう言った。
その言葉が私の中にずっと残っていた。
親友の葬儀を終え、心にポッカリ穴が空いたような気分で過ごしていたが、それからほどなくして、なんと妊娠している事が発覚した。
親友の言葉が蘇る。
「本当に、ここに宿ったっていうの…?」
きっとそうに違いない。
私は信じることにした。
産まれてくるこの子には、親友の名前から文字をもらおう。
そう決めて、私はお腹を愛おしげにさすった。嬉しくて流したのか、切なくて流したのか、涙が頬を伝って零れ落ちた。