秋が終わりを告げ風が落ち葉をくゆらせる。
そんなある日、いつも通りの道を運転していた。道路にふと目線を向けると茶色いものが落ちている。
一瞬だったので落ち葉かな?と思ったが妙に気になったのでその道に戻ることにした。道を戻ると茶色いものはまだ落ちている。車を降りて確認すると、なんとそれは落ち葉ではなく雀だった。
雀は少ししか動かない。けれども懸命に逃げようとしていた。僕はこのままじゃ轢かれてしまう、死んでしまうと思い、とりあえず車に乗せた。
仕事があったが、それよりもただ雀が心配になり急いで動物病院に向かった。病院に向かう途中、籠などがないため雀は少し暴れ足元などに入ってしまう。苦戦しながらも運転し病院に着いた。
雀をやさしく手で包み、病院の受付に事情を説明する。しばらくすると看護師は「看るけどどうします?ご自身のペットではないのでお金は払えますか?」と信じられない言葉を投げかけてきた。
僕は怒りに震えながら言った。
「お金ならいくらでも払いますよ?それより命が大事じゃないんですか?」
看護師は「そこまで言うなら看ます」と診療室に連れて行った。
本当はこんな病院を移動したかったが、雀はどんどんグッタリしていたので移動する時間はなく、不本意だがこの病院で治療してもらうしかなかった。
しばらくして医師に呼ばれると、雀は何かの拍子にぶつかり全身打撲ということだった。治療はというと、野生の動物だからこそ人が手を加えて治すのではなく、安静にして自然治癒させる方が良いと言われた。
そして知らなかったのだが、雀は保護のための飼養であっても無断で傷病鳥獣を飼うことは法律で禁止されている。それでも僕はこの雀を放ってはおけなかった。
自然の摂理を乱すことは悪いことなのか。という思いを抱きながらも、僕は雀を小さなダンボールに入れ家に連れていった。
そしてできる限り自然での生き方を壊すことのないよう、庭に向かったベランダの外でダンボールを開けたまま様子をみることにした。小さな小さな命だが、懸命に生きようとしている。
米と水をそっと置き、触れることのないよう見守る。たまにこちらを見る目がとても愛らしい。何度も「大丈夫かい?」「痛くないかい?」と話しかける。
陽が落ち始めたころ、雀はどんどん元気になっていた。野生の力とは本当に凄いものだ。そしてダンボールから飛び出しベランダ内を行き来する。
ベランダに夕日が当たり、雀が一回だけ僕を見た。その瞬間に飛び立ち雀は空に消えていった。
心から安堵し、一瞬こっちを見たのはお礼だったのか。と嬉しい想像を膨らませる。
もう二度と会うこともないが、心が温まる出会いであったことには違いない。