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2019-11-10

命の恩返し

人の騒ぎ声と銃声が聞こえる町。周りには市場と線路が並ぶ。

そんな街に生まれた少年は今日も盗みを続ける。盗みをやる理由は単純。生きるためだ。

少年の名はノア。生まれた時から父親はいなかった。病気の母を看病するためには食べ物がいる。薬を手に入れるためにはお金がいる。幼いノアを雇ってくれるところなどない。

ボロボロの服を身にまとい、今を生きることが精一杯。綺麗ごとなど言っている場合ではない。母を守るため、もう盗みで生きていくしか道はなかった。

 

ある日にいつも通り市場から食べ物を盗って走るノアはそこの店主に捕まった。ボコボコにされると思い、目をつぶるノアにその店主はスッと袋を差し出した。

その中に入っていたのは食べ物とお金。店主は「お前も苦しいな」とノアの頭を撫でて店に戻っていった。

ノアは涙がとまらなかった。人に優しくさることなどなかった。いつもいつも生きることで精一杯な自分が凄く惨めで悲しくなった。

数日後の朝、ノアの母が危篤になってしまった。どうすることもできなく、無我夢中で走り、辿り着いたのは食べ物とお金をくれた店主の店の前。絶望から店前に座り込む。しばらくしてシャッターが開き、店主がノアをみる。

「おお、この前の。どうした?」と店主は声をかけた。

「お母さんが。お母さんが」とノアは涙ながらに店主に訴えかける。

店主は「どっちだ?」とノアを抱えて走り、家に着いた時にはノアの母は亡くなっていた。泣くノアの頭を撫でて店主は一言「うちに来い」と言った。それからノアは店主に育ててもらった。

店主は自分の子どもと変わらずノアを可愛がってくれた。店主の家族と過ごす日々が続き、店主のことを「父」と呼び、ノアは成長していった。

 

月日が流れても相変わらず、貧しい人達が集まり争いの銃声が鳴る物騒な街。ある日、店主の娘が争いに巻き込まれ、流れ弾に当たり重傷を負ってしまった。

すぐに病院に駆けつけ、医師の話を聞くと、大きい街の病院で移植をしないと助からない状態だということらしい。

その場に座り頭を抱える父にノアは笑顔で言う。

「僕のをあげるよ。僕は父さんに命を救ってもらった。父さんは僕に命をくれた。今度は僕の番だ」

父はノアに怒る。

「馬鹿なことを言うな!おれはそんなつもりでお前を育てた訳じゃない!」

ノアはその言葉だけで嬉しかった。こんな汚い自分を拾ってくれて、こんなに愛してくれる父が本当に嬉しかった。

次の日、ノアは手紙を残しゆっくりと病院の前で身体を傷付けずに逝った。

手紙にはこう記してあった。

「お父さん、本当にありがとう。僕は幸せだった。父さんに育ててもらい、とてもとても幸せだった。僕は父さんに何の恩返しもできないけど、これで少しは恩返しができるかな?ありがとう。親愛なる父へ」

父はノアを抱き涙を流す。

ノアの身体は綺麗に残ったまま、幸せそうな笑顔が輝いていた。

 

 

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