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2020-04-28

母から贈られる母の日

うららかな春の日、私は抱っこひもで息子を抱えながら、駅前のデパートで小さな財布を物色していた。

上質な革でできた財布は品があり、大人の女性が持つには丁度良い。

父が定年退職してから、夫婦で海外旅行へ行く事を毎年の楽しみにしている母へ、旅行のお供用に贈ろうと思い、私は母が好きそうな色の組み合わせを探していた。

毎年やってくる母の日のプレゼント。物心ついた頃から、母の日には必ず何か贈っていた。

王道のカーネーションだった事もあれば、手紙だった事もあるし、今回のようにちょっとしたプレゼントを買う事もあった。幼稚園生ぐらいからだろうか。

抱っこしている息子を見つめて、私は自分も母となった喜びと実感を噛み締めた。この子が幼稚園に通う頃には、母の日に手紙のひとつもくれるようになるのだろうか。

そう思うと同時に、子育てが喜びだけに溢れているものではないと知り、幾多の大変さを乗り越えて私を育てあげてくれた母に、改めて感謝するようにもなっていた。

今年の母の日は、なにか今までとはひと味違う特別な感情をもって、こうして母にプレゼントを選んでいるのだった。

 

母の日が近くなり、実家へ行く用事があったので、この時に渡そうと思い選んだ財布を手に実家へと向かった。

順調に成長している孫の姿を見て目を輝かせる両親を見て、私は、少しは親孝行ができているのだろうか、と思った。

父も母もスマートフォンを孫に向けて何枚も写真を撮っている。

そして抱き上げては嬉しそうに「重くなった」と言い合っている。

「お母さん、はい、これ。母の日」

私は孫に夢中になっている母にラッピングされた小さな箱を差し出した。

「あら、まあ!ありがとう!」

母はそう言ってから「実はね…」と言い出した。

孫を父に預けて、母はいそいそと二階へと上がっていった。

降りてきた母の手には小さな袋が握られていた。

「はい、私からも、母の日のプレゼント」

「え?」

一瞬何を言っているのか分からず、母の顔をまじまじと見つめてしまった。

「我が孫に代わって。初めての母の日だから、記念にね」

母は満面の笑みでそう答えて、袋を私に握らせた。

開けてみると、髪をまとめるバレッタがキラキラと輝いていた。

「ネックレスやイヤリングだと子どもに取られちゃうから身に着けられないでしょ?バレッタならまだ大丈夫かな、と思って。子育てにかまけてお洒落もできないだろうけど、たまにはこういう綺麗なものをつけて気分を変えなさいね」

母はそう言って、私がプレゼントした財布を箱から取り出して「わー!これは便利!ありがとう」と笑った。

思わぬ不意打ちのプレゼントに驚き、私は胸がじわっと温かくなるのを感じた。

 

 

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