仏壇にお参りをする両親。それに伴い、自然と僕達も毎朝お参りをする。
そこには僕の知らない曾祖父と曾祖母の写真。
そしてもう一つ位牌だけがある。
三人兄妹の真ん中として生まれた僕は妹がいる。歳がはなれているせいか、妹ができた時は本当にうれしく、生まれた時は可愛くて可愛くて仕方がなかった。
小学校低学年くらいの時だろうか。僕は毎朝お参りをする時にあるもう一つの位牌が誰なのかが気になっていた。字が読めるようになったので、位牌に書いてある名前も読み取れた。それでも子供心ながらにどこか聞いてはいけないような感じがして、両親には聞けずにいた。
そうして時は流れて中学生のお盆の時、家族でお墓参りに出掛けた時に僕はふと両親に聞いた。
「あの位牌とお墓に書かれてるのは誰なの?」
すると母親は哀しみを包み込むような優しい顔で答えた。
「弟か妹だよ…。あなたが二歳の時に、生まれる前に亡くなった子。男の子か女の子か聞いていなかったから、弟か妹かどちらかはわからなかったけどね」
「え!?」
僕は衝撃をうけた。考えていたのは先祖に縁のある人だろうと思っていたけど、まさかそんなに近しい存在とは思ってもみなかった。そしてもう一人、弟か妹がいたなんて…。
なんとも言えない気持ちが胸を締め付ける中歩いていると、父親が僕の隣で話を続ける。
「あの時は悲しみに暮れて大変だった。母さんも終日泣いてばかりで…。でもお前と兄ちゃんがいたから前を向くことができた。けれども忘れるのではなく、ずっと同じように思い続けている。そして今その子はまた生まれ変わってきてくれた」
両親の哀しみが伝わりながらその時の両親を想像してしまった。見えない弟か妹がいた僕も哀しい気持ちになるのだから、我が子を亡くした気持ちは想像を絶する哀しみに違いない。その哀しみにあまり触れてはいけないと思ったが、どうしても父親の「生まれ変わり」という言葉が気になった。
「生まれ変わりってどういうこと?」と僕が聞くと、母親が前を無邪気に走る妹を見ながら答える。
「あの子と同じ誕生日なの」
奇跡を身近に感じ、僕は切ないような嬉しいような複雑な気持ちになった。その時に感じたのは、妹が二人分の命を持っている。そんなような気がした。
その日を境に僕はもう一人弟か妹がいることを実感しながら毎朝お参りをした。
姿や顔などを想像する自分がいる。不思議とぼんやり自分や兄妹に似ている顔が浮かぶ。
両親の哀しみに触れないよう、それ以来深くは話していない。
けれどもその弟妹は深く心の中にいる。
生まれてこなかったもう一人の弟妹を思いながら生きてゆく。