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2019-12-11

振り向くわたしは恋をした

駅の地下通路。

良い香りと共に通り過ぎる男性。

その香りとシルエットは私を振り向かせた。

少しだけ捉えたその姿はオシャレな男性。スラっと細い後ろ姿にブラウンのマフラー。その男性は曲がり角に消えて行った。

その日からその男性の姿と香りが頭から離れない。知っている人でもない、見たことのある人でもない。

「ひょっとして恋?まさかすれ違っただけで、顔も見えない人にありえない」と、モヤモヤしながらも気になる理由が自分の中でわからないでいた。

通勤で駅の地下通路を毎日通るが、あの日以来その人を見ることはなかった。私は忘れるように日々を過ごしていた。

 

そうしていつもの日常に戻り始め、忘れかけてかけていた頃に、駅の改札口を通った瞬間私は振り向いた。

「あの時と同じ香り!」

バッと振り向いたが、人混みの中でどの人かはわからない。私は数分ほど人が通り過ぎる駅で立ち尽くしていた。

わからない人を気になる自分、そして忘れようとした時に現れるあの人。これはどういったものなのかが自分の中でわからず、モヤモヤと私の心を曇らせる。

その日、私は自分の中でこの気持ちを抑えることができなく、友人に相談した。

友人は「それは恋でしょ?間違いないって」と言ったが、私は「全く知らない人に?ありえないでしょ?」と言うと友人は言った。

「それが恋でしょ?それに、顔もわからない、何も知らない人に恋をするってなんだか良いじゃん」と。私は確かに…。と思い、この気持ちは恋と納得させられた。

それ以来私は、忘れようとするのではなく、あの人への恋を実らせたいと考えるようになっていった。

 

次の日から、私は駅の人混みにあの人がいないか探す。

けれども手掛かりと言えばシルエットとあの香りだけ…。なかなか見つけられるものではない。かといってあまり人をジロジロ見ているのも怪しい人と思われるので、なかなか難しい。

毎日の通勤で通う駅だし、きっとまた会えると信じ、気長に探そうと思って歩き出した矢先に私は手に持っていた傘を落とした。そして拾おうとした時…フワッとあの香りがした!

振り向いた先には探し続けた歩くあの人。そして悲しくも同時に視線に入ったのは待ち合わせをする女性の姿。

その人と女性は幸せそうに笑っていた。勝手に浮かれていた自分が惨めに感じると共に胸を締め付ける。

顔も知らない、話すこともできない恋だった。

私の恋は振り向いたことから始まり、振り向いたことにより終わりを告げる。

しばらく駅に立ち尽くした後、雨の降る道で涙が流れた。

 

 

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