波の音と共に汐風が舞う。
サーフィンが趣味の僕は、遠い地にあるこの小さな島の海が好きだ。
休日の日、この島と海に吸い込まれるよう足を運ぶ。
いつものように海に入り波を満喫していたが、その日は波が高く、これ以上は危険だと判断した僕は砂浜に向かい帰る準備を進めた。
そんな中、ふと視線を向けると少し遠くに女性の姿が見える。女性は髪をなびかせながら海を見つめていた。そして僕の方を見て、軽く会釈をしながら微笑んだ。
見かけない女性だ。この島の人だろうか?そんなことを思いながら、僕も軽く会釈をした。
そして馴染みのカフェへと行き、いつものようにマスターと世間話などをしていると、先程見かけた女性が入ってきた。少し気になった僕は、マスターに何気なく「あの子は?」と聞くと、どうやら最近この島に引越してきたらしい。
その女性と視線が軽く合い、僕は何気なく話かけた。
「先程会いましたよね。この海が好きでよく来ているんですよ」
女性はやさしい笑顔で話してくれた。
「私もこの海が大好きで。海を見て、ここのカフェにもよく来ています」
その後も初めて会ったとは思えないほど色々と会話が弾み、楽しい時間が過ぎて行った。
この日から、僕は彼女のことが気になっていた。
そしていつしか、この島と海に吸い込まれるよう訪れる理由は、彼女に会える喜びに変わっていった。一緒に時を重ねると穏やかな時間が流れる。
サーフィンをする僕を笑顔で眺めてくれたり、カフェでゆっくりと話をして過ごしたり、沈む夕日を一緒に眺めたり、僕達は自然と距離を縮めていった。
そしてある日、急に彼女との連絡が取れなくなった。最初は何か嫌われることをしたかな?と考えていたが、一向に連絡が取れないので次第に心配へと変わっていった。心配が募り、居ても立っても居られない僕は島へ向かう。
けれども彼女の家も知らない、家族や友達なども知らない。カフェに向かい、マスターに尋ねるが最近は来ていないという。残るあてがあるのは彼女と出会った海岸だけ。
海岸へ着くと、うっすらと人が立っている姿が見えた。僕は走りその人影に近づく。姿を捉えて彼女の名前を呼ぶと、振り向いたのは彼女ではない女性。しかし、見間違えるほどに姿や雰囲気が似ていた。
すると女性は哀しみの溢れる声で話をした。
「あの、妹とお知り合いでしょうか?妹は、先日亡くなりました…」
「え…!?」
僕は理解することができず、目の前が真っ白になった。
彼女は病気で余命宣告をされていた。そして大好きだったこの海で最期を迎えたいという希望でこの島へ移住した。
一緒に時を過ごしている時は、そんな素振りを微塵も見せていなかったのは彼女のつよさとやさしさ。思い返せば将来の話などはしたことがなかった。
海を眺めながら涙が流れる。
一時の幸せだった。一時の恋だった。
どうしようもできなかった無力な自分。どこまでもつよく、そしてやさしい彼女を思うと涙がとまらない。
胸が張り裂けそうな悲しみに、無情につづく波の音。
沈む夕日は彼女の笑顔のようにゆっくりと海を照らしていた。