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2020-08-11

時ノ墓

ジリジリと暑さが増す盆の夏日。

降るような蝉の鳴声の中、水とお供え物を持って坂を上る。

上った先に佇むお墓。これは僕の母方のお墓。

 

僕は母方の祖父母に孫の中でも特別に懐き、可愛がってもらっていた。そんな僕は祖父母の家系とお墓を、祖父母と同じく大切に思っていた。姓が違うので家系には入れないが、僕にとっては大切なお墓。

幼き頃、墓石は今みたいに立派ではなかった。歴史を重ねた墓石に、外柵も装飾品も一切ない。言うならば昔ながらの質素なお墓。

けれども僕が物心がつく頃、そのお墓を新しくすることになった。外柵がつき、装飾品が飾られた立派なお墓だ。そして新しくなったお墓に家族皆でお参りをする。

お墓の前で、祖父は誰よりも長くお参りをする。その気持ちは誰にもわからないが、先祖に何かを伝えるよう静かにお参りをしていた。

その時に母が教えてくれたが、祖父は曾祖父に、お墓を立派にして守ってほしいと伝えられ、自分の代で新しくすると約束していたらしい。母は妹と二人姉妹。お墓は祖父母の代で最後となってしまう。

その思いが深く込められてお参りをする祖父の背中はどこか哀しく、どこか大きく、家系と家族を大切に守っている威厳を感じさせる。

そして新しく輝かしい墓石の後ろには、祖父の名前が誇らしげに刻まれている。祖父はお参りをしたあと、お墓を見つめて涙を流していた。その涙は約束を守った嬉しい涙か、自分の代で終わりを告げる哀しい涙か、静かに頷きながら涙を拭っていた。

祖父は曾祖父の遺言通り、お墓を立派にし、先祖の願いを叶えた。それは幼き僕にとっても、どこか胸を熱くさせるものを感じさせた。曾祖父の言葉を忘れず、コツコツと貯金をし、何十年の時を経て遺言を叶えた。人として、これ程立派なことはない。そんな祖父を僕はますます誇りに思う。

 

何年も通う後、昔は多く並んでいたお墓も、今は子孫がいないのか放っておかれたお墓や、無くなっているお墓などが増えた。静かに歴史を重ねた数々の墓石は、時の流れによりゆっくりと変わっている。

時が経った現在、このお墓の霊標には、代々の先祖と最後の二人となる祖父と祖母の名前が刻まれている。

大好きな祖母が亡くなった時には、僕はお墓に通い、夕暮れまで座っていた。今も思うが、叶うならば自分が死んだ時には、このお墓に入りたいと思う。それほど僕にとって大切な大切なお墓。

この大切なお墓にきっと僕の名前が刻まれることはない。

入ることができないのなら、せめて僕はこの隣に自分のお墓を立てよう。

そう思いながら、自分の最後までこのお墓を絶対に守っていくとお参りの中で誓う。

 

 

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