今や生活の一部に当たり前となった携帯電話。
携帯が普及して、公衆電話が激減する中で、ひとつの公衆電話が話題になった。
なんでもその公衆電話は「未来につながる」というのだ。
受話器をもって心の中で強く念じれば、望む人と会話ができるという。未来につながるため、まだ出会っていない人と話をすることもできるらしい。
この公衆電話が、結婚できるかどうかが分かるとして独身の男女の間で噂が広まり、連日長蛇の列ができるようになった。
また、不妊治療中の夫婦や、病気になった親を持つ子なども足を運んでいた。
公衆電話は果てしなく続く道の端にポツンと設置してあった。電話ボックスに囲まれているため、電話口で何を話しているかは聞かれずに済む。
電話ボックスから出てくる人を見ていると、肩を落として出てくる人、泣きながら出てくる人、喜びにニヤけながら出てくる人、晴れやかな顔をしている人、様々な人々が出てきた。
ボックスに入る時は皆一様に不安そうに緊張した表情を浮かべているのに、出てくる時は人それぞれで、なんだか不思議な光景だった。
僕は、この公衆電話に興味があったが、電話をかけるのが怖かった。知りたい事は、結婚できるかどうか、未来のパートナーに電話をかけたいと思っていた。
ちなみに、生涯独身の場合、あるいは子どもを望んでいても子どもに恵まれなかった場合など、思い描いた相手がいない場合は、電話は誰にもつながらないらしい。
何度か素通りして、僕はついに心を決めた。
緊張したが、列に並び自分の順番を待った。電話ボックスのドアが近づくにつれて鼓動が速くなる。
前の人が電話ボックスの中でこちらを振り返り、目を見開いた。
「…!?」
そして受話器を置き、ボックスから出た。こちらをチラチラと見ているのが気になったが、僕の後ろにも沢山の人が列をなして待っているので、僕は電話ボックスに入って受話器を取った。
まだ見ぬパートナーを強く心に思い描いて受話器を耳にあてると、しばらく経ってから女性の声が聞こえた。
「もしもし」
僕は、結婚できる!
女性の声が聞こえただけで、僕は安堵と興奮で包まれた。どんな顔をしているのか?どんな人なのか?と心が高ぶる。
僕は電話の向こうの未来のパートナーに、いつどこで出会うか尋ねてみた。
すると、予想外の答えが返ってきた。
「ついさっき、あなたの前に電話をしていたのが私です」
なんということだろう。
そうか。彼女がちらちら僕を見ていたのはそういうことだったのか!
僕は思わず電話ボックスの周りを見渡した。
すると、彼女が少し離れたところに立っているのが見えた。
僕はすぐに受話器を置き、ボックスから飛び出した。
「あの…」
彼女に声をかけると、彼女は少しはにかんだように笑った。
「もしかして、私につながりました?」
ひとつの不思議な公衆電話の前で、少し戸惑いながら、そして安心しながら僕らの恋は始まった。