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2020-02-14

ゆきのキオク

ふわふわの絨毯に寝ているような、あたたかく包まれる感覚。

目をつぶっていても、明るい太陽が昇っているのがわかる。

それは雲にでも浮かんでいるような、宙に浮いているような感覚でもあった。

 

北の地は雪が降る。

何をするにも不便になり、雪かきに追われ、色々と生死にも関わってくる極寒の地は、大抵の大人達から嫌われる。

幼い頃、祖父母の田舎で見る雪景色。遮るものがない、田んぼと山がどこまでも続く白銀の世界だった。山は雪花を咲かせ、川は宝石のように凍り、田んぼは世界が白に染まる雪の絨毯となる。

誰もいない、何も聞こえない白い世界。そこに寝るのが好きだった。チラホラ雪が舞う中に、太陽の光が差し込む。天国に近い場所のような気がした。

ちょうどその頃、祖父母の近所では仔犬が生まれた。昔の時代の田舎とのこともあり、仔犬は鎖には繋がれておらず自由に雪景色の中を走り回る。家の玄関を開け、空に向かって「おいで!」と言うと、仔犬達は元気に走って僕のもとに来てくれた。仔犬達と雪の絨毯を走り、木の下でカマクラを作って一緒に戯れる。

外から帰ると、冷えた身体を温めるように祖母がよく甘酒を作ってくれた。その甘酒は酒粕から作ってくれる昔ながらのもの。雪のように白く、そして身体だけが温まるのではなく愛情の温もりを感じた。

 

今外を見ると雪は変わらず降り積もる。

けれどもそれはあの時とは違った光景。寒いと思い外を避け、運転するにも困ると思う。あんなに大好きだった雪が、今はうっとおしく思ってしまう自分がいる。

景色はもちろん変わったが、雪は変わることなく降り積もる。景色以上に変わったのは僕の心。

あの頃は雪が降っていても、吹雪いていても、凍えるような寒さの中でも心はいつも輝き、目に映るものは晴れやかだった。あるのは寒いということより真っ白な透き通る心。けれども今は、暖かい場所にいて、どんなに天気が良い日でも、心が冷えて曇っている自分がいる。

雪から記憶が浮かび、変わってしまった自分の心にどこか寂しさと切なさが染みる。

窓から降り注ぐ雪を見つめながら辿る「ゆきのキオク」は、今の自分と過去が戻らないことを無言で教えてくれる。

 

 

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